音楽による英才教育について

2.少年少女期

2019年10月31日 16時00分

続いて小学生から中学生くらいの年代についてです。
このくらいになると、才能を見出された子だと、早くも専門家のレッスンを受けたり、海外留学したりといったこともあります。
もちろんそれはごく一部、ほんの一握りの人たちです。しかし、この時期が「伸び盛り」の時期であることはすべての人に共通しています。音楽についてはもちろん、その他のものごとについても理解し学習する能力がしっかり身についているので、メンタルな面まで含めて、お子さんのパーソナリティ全体の「人間力」を高めるために絶好の時期です。ただひたすらレッスンをすればよいというものではありません。驚くほどの吸収力が見られるこの時期、幅広く、総合的に学ばせていきたいところです。
以下、ポイントを整理しましょう。
 
2.⑴学校の勉強をおろそかにしない
当たり前ですが、忘れてはいけない前提です。近代の市民にとって社会生活上必要となる基礎的教養のことを「リベラルアーツ」と言いますが、これは音楽家にとっても当然求められます。
学科の中でも国語は特に大事です。あとに述べる「楽曲の研究・理解」に必要ですし、次の成長ステージである「成熟期」における、言語表現力などにも結びつきます。
英語も大事です。やはり次の「成熟期」には海外留学も視野に入ってきますので、ヨーロッパの言語にはしっかり触れておくべきです。
算数や数学も無関係ではありません。古代ギリシアのピタゴラス学派にとって、音楽が主要な研究テーマのひとつだったことにも現れているように、音楽と数学は結びついています。バロック期の対位法芸術などはきわめて数学的と言えます。そうした音楽を研究し理解するためにも、数学は必要です。
それから、小学校・中学校の先生や友だちとのかかわりも大切にしましょう。「人間力」は社会性の中でつちかわれるものです。
 
2.⑵生演奏をたくさん聴かせる
古今東西の古典的名曲を、できるだけたくさん聴かせましょう。日常的にはCDやネット配信の音源でもけっこうです。それしかない場合も多々ありますので。
しかし、極力多くの機会をとらえて、ライブでの演奏を聴かせるようにしてください。特に、世界的に名の通ったアーティストなどによる、ハイレベルなパフォーマンスが期待できるコンサートなら、何万円かかろうとも逃さずに聴きに行かせましょう。音の粒立ちは肌で感じるものです。メディアを通しては消えてしまうものです。生で見て、聴いてこそ感動も深まりますし、なによりも、お子さんのモチベーションを高めます。
 
2.⑶楽曲の研究・理解をはじめる
ゆたかな表現力は、楽譜通りの演奏だけでは出せません。楽曲がどのようなテーマをもち、ストーリーをもっているか、理解し共感することを通して発揮されるものです。
そのために、まずは作曲家の生涯を学びましょう。バッハは仕えた主君の方針に従いましたので、時期によって曲調が変わります。モーツアルトのよく知られている作品は、その短い生涯の晩年に集中していますが、その時期にどんな生活をしていたか、知っておきましょう。その他、引っ越しマニアのベートーベンや、祖国を離れ短い生涯を終えたショパンなど、ドラマティックな生き様はそれぞれ感慨深いものがあります。
それからもちろん、個々の楽曲です。テーマやストーリーはもちろんのこと、作曲家が込めた意図や思いも理解したうえで演奏しないことには、十分な表現は達せられません。
 
2.⑷レールを敷かない、強制しない
伸び盛りの時期ではありますが、しかし思春期の始めでもあり、伸び悩むこともありがちな時期です。お子さんたちとしても、少し立ち止まりたくなる時もあります。
そんなとき、熱心な親御さんほど焦ってしまいます。そして、お子さんに厳しくあたってしまいがちです。
言うまでもなく、それは逆効果です。まずは辛抱強く見守りましょう。上記のように、この時期はひたすらレッスンをすればよいというわけではなく、レッスン以外の英才教育的アプローチも数々あります。コンサートを聴きに行かせたり、本を読ませたり、友だちと遊ばせたりと、できることはたくさんあるので、焦る必要はありません。
そして、熱心な親御さんほど、お子さんの将来にレールを敷いてしまいがちです。それも、狭くレールを敷いてしまうのです。
お子さんの人生は、お子さん自身のものです。「こうなってほしい」という親御さんの願望を押しつけてはいけないのです。お子さんの将来を思ってのことと、親御さんは自己正当化しがちですが、お子さんが苦しむだけです。いったん、趣味の範囲で楽しむレベルまで退却して、気持ちを楽にさせてあげてはいかがでしょうか。
 
■まとめ
小中学生の時期は伸び盛り。人間としても驚くべき成長を見せる時期です。お子さんにとって、演奏家としてだけではなく、ひとりの人間としてとても大切な時期です。
それだけに、繰り返しますが「レッスンだけすればよいわけではない」というポイントが大事になります。生活すべてが、音楽的英才教育になります。

関連ページ